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私設北海道開拓使の会メールマガジン『異論・暴論・創論』Vol.18
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 私設北海道開拓使の会10周年に思う
   柳井正義(当会理事)

  編集後記

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               2004年5月17日

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私設北海道開拓使の会10周年に思う
柳井正義(当会理事)

本年4月にて私設北海道開拓使の会(以下、開拓使の会)は10周年を
迎えた。開拓使の会の設立当初から関わっている立場として、この10
年を振り返るとともに、私的暴論を述べたいと思う。

開拓使の会ができたのは平成6年(1994年)のことで、当時はバブ
ル崩壊から数年が経過し、地に足をつけた生き方が見直されている時代
だったように思う。既に、バブル期からマイホームも持てないような東
京から脱出しようという動きが兆しており、「田舎暮らし」などが着目
されていたが、北海道について言えば『北の大地に移り住む・十勝編』
(佐藤尚道著)と、その本から生まれ十勝地方を中心に活動する「百年
遅れの屯田兵」が火付け役だった。「田舎で暮らしてみたいが、地域特
有の人間関係やしがらみが気がかり」という人にとって、三世代も遡れ
ばもともと道外からの移住者でほぼ成り立っている北海道はよそ者を偏
見なしに受け入れてくれ、新しい生活を始めるのに最適地だったと思
う。開拓使の会は、百年遅れの屯田兵の姉妹団体として、札幌を中心に
生まれた。
開拓使の会が生まれた背景にはもう一つある。それは、地域活性化のあ
り方だ。北海道は、明治期以降、日本国内の最後のフロンティアとして
開拓が進められ、石炭や食糧を全国に供給してきた。戦後も、高度成長
を支える産業基地たるべく苫東などの大規模産業団地を始め、道内各地
に工業団地が造られ、道路が整備された。しかし、バブルと並行して進
んだ円高とグローバリゼーションにより産業の空洞化が進んだ結果、道
内への企業誘致は困難になってしまった。そこで、開拓使の会が考えた
のが、「人材の誘致」である。これは、北海道に企業を誘致し雇用を創
出し地域の活性化を図る、という発想ではなく、まず人を誘致する、そ
して、人が集まるところ新たな産業の芽が育つはずだ、あるいは、多彩
な人材が集まることにより企業活動や地域も活性化するはずだ、という
発想である。
こうした発想に共感する企業や地域の支援を得て、開拓使の会は生まれ
た。設立当時は、まだまだ人材誘致という発想に馴染みが少なく、「こ
んな寒くて雪が多くて他に何もないところに誰が来たいんだべさ」など
という声も聞かれたが、石黒直文代表世話人(当時はNPO法人ではな
かったので理事長ではなかった)や初代事務局長太田明子氏による積極
的な広報活動と、何よりも設立から2年ちょっとで千名を超える会員を
獲得した実績で、開拓使の会の認知度は高まった。それに伴い、道内各
地で「わが町にも移住者に来てもらおう」といった動きや支援団体設立
が相次いだ。

しかし、平成9年(1997年)に転換期がやってくる。それは、たく
ぎん破綻に象徴される北海道経済のプレゼンスおよびイメージの低下に
よりもたらされた。それ以前から、「北海道経済=ジャンボ機の後輪
説」(離陸のときは一番最後まで地面にくっついており、逆に着陸のと
きはまっさきに設置する)というものがあって、日本経済の後進地域と
いうイメージがあったが、この時期以降「北海道に住んで大丈夫なの
か」「仕事がないのではないか」といったマイナスイメージが強まった
ように思う。開拓使の会の入会者は、この年をピークに伸び悩み、ま
た、道庁が行っている「U・Iターン北海道フェア(住まいる北海道
フェア)」の来場者数も同様の傾向を示している。
もう一つ、転換の契機となったのがインターネットの普及だ。以前は、
少なくとも北海道移住を考える生活者の視点からは、北海道は「憧れの
大地・夢の大地」であった。裏を返せば、北海道の現状は見えにくくわ
かりにくいため、移住希望者は北海道の生の情報を強く欲していた。旅
行ガイドブックは多々あり、道庁や市町村などは移住ガイド的な情報も
提供していたが、表面的なきれいごとが多かった。このため、開拓使の
会が提供するかわら版(情報誌)や道内外の会員が交流するイベント
は、情報獲得の機会として貴重だった。また、毎年道内各地を何ヶ月も
旅行し、ある意味、地元住民より道内各地の情報に詳しい北海道マニア
(北海道オタクとも言う)は、貴重な情報源として開拓使の会の会員の
なかでもヒーロー・ヒロイン扱いだった。しかし、インターネットの普
及で状況は一変した。インターネットを使えば、北海道に限らずどの地
域のでも、一生活者の生の声を簡単に拾うことができる。しかも情報の
鮮度はいいし、費用もかからない。開拓使の会は決して情報提供のため
だけの会ではないが、専ら情報入手を目的としている人にとっては会の
存在意義が薄れてしまったのかもしれない。

このように、開拓使の会は入会者数から見ると1990年代後半まで上
り調子、それ以降は下り調子となっているのであるが、これが北海道の
活力や人気度を表わしているような気がしてならない。ちなみに、90
年代までは移り住みたい都道府県ランキングで北海道はナンバーワン
だったが、最近は長野県にその座を譲っていると聞く。

さて、近年においても北海道に対しては、雪印事件やBSE問題などの
マイナスイメージがあり、今も全国的な景気回復から取り残されてい
る。北海道は日本のお荷物だ、という声まであるらしい。確かに、域際
収支が大幅赤字で、それを公共事業で支えているのは情けないが、北海
道が日本の一部として北海道以外の地域に貢献している部分も多いはず
だ。例えば、食糧など北海道がなくても海外から安く輸入できると考え
ている人たちは、最近の牛肉・鶏肉輸入停止でだいぶ考えを変えたので
はないか。(余談になるが、筒井康隆の短編で『日本以外全部沈没』と
いう『日本沈没』(小松左京)のパロディがある。もしも、北海道が突
然なくなったらというシミュレーションを各分野で行ったら食糧問題以
外でも興味深い結果が得られると思うが。)
他方、平成13年(2001年)に北海道開発庁がなくなり、北海道は
特別扱いされない普通の地域となりつつある。さらに、昨年からは北海
道を道州制のモデル地域としようという動きもでてきた。言わば、これ
までは周回遅れのランナーだからハンディをもらっていたのが、先頭に
立ってペースメーカーをやらされるようなもので、道民としては実現し
てほしいと思う。(もちろん導入される道州制の具体的内容や道州制特
区という方法論はもっと議論したうえで。)道州制になったら、国から
予算をもらう代わり「あれしなさい、これしなさい」と口を出されるこ
とはなくなるが、限られた予算を自ら工夫して効果的に使うということ
になろう。
しかし、気がかりなのは、北海道が変ることに否定的な人が少なくない
ということだ。何と言われようと、これまでのように国から公共事業を
もらってやっていくのがいい、あるいはそう明言せずとも、変ったら困
ると考えている人は多いのではないか。

私は、北海道が特別扱いされる時代はそろそろ終わりにすべきだと考え
ている。北海道は、日本を構成する一地域メンバーとして、国や他の地
域に対して対等な立場に立とうという気構えを持ちたい。
開拓使の会の入会者はこの5年でだいぶ減少した。それは、北海道移住
という夢から覚めて、北海道の現実が見えるようになったせいかもしれ
ない。しかし、北海道の現実を知ったうえで、それでも、北海道に移り
住みたいという人があとを絶たないのはうれしいことだ。とやかく言わ
れても北海道は人を惹きつける魅力を持っている。そして、今の、そう
いった移住希望者たちは北海道を特別視しているわけではなく、他の地
域もいろいろ調べて考えた末、現実的な選択肢として北海道移住を考え
ているのではないか。
開拓使の会では、この春、新たな本を出版した。『新・北海道移住!』
という書名だが、そのキャッチコピーがなかなかいいと思う。「北海道
暮らしは夢なんかじゃない!」 移住希望者にとっても北海道は特別視
されるものではなくなりつつある。


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編集後記
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                  2004年5月17日

札幌ドームのプロ野球公式戦観戦のお楽しみのひとつが応援。
パリーグの中で一番カッチョいいのがロッテだろう。サッカーばりのラ
テンのリズムに黒Tシャツのファンもぴょんぴょん飛び跳ね、ラッパや
太鼓も図抜けてうまい。揃った応援や上手いラッパの音は聞いていてた
いへん心地よい。
思い起こせば円山球場時代、応援ラッパで日本一とも言われたのは札幌
の阪神タイガース応援団。青空の下10数本の管楽器の合奏と黄色い
ジャージを着た応援団メンバーの一糸乱れぬリードは本当に見事だっ
た。札幌ドームの規制があるのか、応援団の都合もあるのか、応援団と
ラッパ隊がドームになってから姿を消した。
一日も早い札幌ドームでの「正規」の応援団の復活を乞う!

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