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私設北海道開拓使の会メールマガジン『異論・暴論・創論』Vol.4 
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  原発のゴミと遺産基金
  新北海道産廃税の提案           石黒 直文
 
 編集後記

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                     2003年3月17日

 □■□■□■  原発のゴミと遺産基金  ■□■□■□■
        新北海道産廃税の提案                  

                         石黒 直文
 
資源を食いつぶした北海道 

 90年代の初め、北海道の経済訪問団の団長としてカナダのアルバー
タ州を訪れた時のことである。私は州当局の説明を聞いてハンマーで
ぶん殴られたような強烈な衝撃を受けた。

 「アルバータ州は、1976年以来、石油、天然ガス等の化石資源
を掘り出すたびに、その一定金額を州の遺産として基金を積み立ててい
ます。私たちカナダ人が、このアルバータ州に住み始めてから百年しか
経っていません。その私たちだけで、神様が5億年もかけて作った化石
資源で得た金を全部費ってしまう訳にはいかないのです。この基金は、
私たちの子孫でないかも知れませんが、将来この地に住む人のために、
手を付けずに残したいと考えています」
 
 この基金(Alberta Heritage Saving
Trust Fund)の現況をみる今年11月現在残高120億カナ
ダドル(約1兆円)投資累計250億カナダドル(約2兆円)、アルバー
タ州の人口300万人だから1人当たり100万円の基金資産を持って
いることになる。

 百数十年前、北海道に渡ってきた和人は、開発、開拓の名のもとに地
下資源を堀り尽くし、森林を切り尽くし、ニシンを獲り尽くしてしまっ
た。このカネは本州の財閥形成のために使われ、北海道に荒廃した山と
海が残された。残念ながら北海道に、遺産は全く残っていない。カナダ
に限らず、サウジだってクェートだって資源を掘り出した民族は、後世
のためにカネを積み立てている。それを考えると顔から火が出るほど恥
ずかしかった。もう二度とこんな間抜けなことをしてはなるまいと痛切
に思ったのだった。
 
 原発のゴミの捨て方

 2年前の5月、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が制定
され、原発から出てくる高レベル放射性廃棄物を「日本列島のどこか」
へ地中深く埋めること、そのための費用を積み立てることが決まった。
地区選定に当たっては公募で決めることとし、市町村に対しこのほど公
募が始まった。

 どこに埋めるか。考え方は二つあるだろう。人がたくさんいて一番た
くさん使った人の地下に埋める。たとえば経済産業省とか東京電力本社
ビルの地下。これも一つの考え方。荒唐無稽のようだが、使った人が責
任をもつという意味でも、人がたくさんいるところが安全という意味で
も一つの考え方だ。もうひとつはできるだけ人のいないところに埋める。
過疎地で人がいないほうが安全という考え方だ。そのために電源3法の
ニンジンをぶら下げて、手をあげる過疎市町村を待とうというわけだ。

 実は、政府が目をつけているのは、深地層については北海道幌延町、
超深地層については岐阜県瑞浪市。はっきりいって、それ以外のところ
でわが町にゴミを持ってきていいという市町村はない。候補地応諾の条
件はなにか。 

 ご批判を受けることを承知の上で、私は原発のゴミを北海道が引き受
けてもいいと思っている。それは目の前にぶら下げられたニンジンのた
めでない。われわれは、原発に賛成というわけでもない。だが、わが国
は、もうすでに電力の半分近くを原発に依存しているのだ。いま止めて
も間違いなくゴミは残る。海外に持っていけないのだから、日本列島の
どこかで引き受けなければならない。押し付け合っても始まらない。

 ただ、このゴミは1万年残る。原発の寿命はせいぜいあと30年だろ
う。たった30年間の電力をまかなうためにゴミは1万年。つまり、
来世紀以降の住民は全くメリットなしにリスクだけを負うことになる。
飛行機に乗った人間が墜落事故にあうのは不幸なことではある。だが、
この場合、受益者とリスク負担者は同一人物だ。事故にあうのがいや
なら飛行機に乗らなければいい。しかし、1万年後の原発のゴミによっ
て事故にあう人間は、全くメリットも選択もなしに事故だけが降りかか
る。ご不幸でしたでは済まされない。

 アルバータの遺産基金の逆。後世にリスクを負わせるなら、それに見
合う遺産を後世のために残さないと人の道に外れる。犬の糞を道端に放
置していく飼い主より、もっと恥ずかしいことだ。

 計算が根本的に違う
 
 このような超長期の観点に立って考えると、現在、政府が行っている
最終処理の考え方ややり方には根本的な間違いがある。

 まず第一に積立金額が少なすぎる。政府は、最終処分費用を2.9
兆円、ガラス固化体1本当り拠出金額36百万円、原発発電1キロ
ワット/時当り15銭と計算している。この数字は、全く少なすぎる。
私の計算だと、それぞれ9.2兆円、217百万円、93銭である。
後に見るドイツの積立額に比べても全然少ない。

 政府試算が過少なのは
?
ゴミは1万年残るのに300年経ったら埋め立てて終わりとしてい
ること? 今後の金利水準を年利5%としていることのふたつの理由に
よる。半減率1万年のゴミをどうして300年で知らん顔ができるのだ。
金利にしても新発国債が1%を切ろうとしているのに将来金利5%とは、
どこの国の話だ。

 中央政府は信用できない 

 第二の間違いは、電力会社から徴収して特殊法人の原発環境整備機構
・資金管理センターが保管していることだ。原発の電気代は、消費者が
負担して最終処分地の住民が保管すべきだ。

 歴史的に見ても中央政府を信じたらろくなことはない。自分の不始末
で金が足りなくなると、地方や民間のふところに平然と手を突っ込む。
マスコミを利用してウソをつく。つぶさないといってつぶす。法律で決
めていても、もっとらしい顔をした審議会を隠れ蓑に、財源を自分のほ
うに取り上げる。最近の地方交付税、道路財源をみよ。

 江戸時代から大名貸しほど危険なものはない。お上を信用したら身を
滅ぼす。よく考えればわかるように、このカネは最終処分地に住む住民
の安全確保のための費用であり、1万年残るゴミの補償費用なのだ。迷
惑をするのは地域住民であって、日本政府でも、何とかセンターでも、
電力会社でもない。これらの機関は加害者であっても、被害者ではない。
こう考えてくれば加害者が拠出金額を決めたり、保管したりするのがい
かにおかしいことかわかるだろう。

 もうひとつ言わしてもらえば、これらの機関は、1万年はとてももた
ない。日本に近代的な意味での政府ができて百年ちょっと、電力会社が
できて50年しか経っていないのだ。もちろん、地域住民といっても、
おそらく日本人ではないだろう。北海道に和人が本格的に住み始めて
130年。だから、千年,万年の先にこの地に住んでいるのが、日本人
か、ロシア人か、中国人か、あるいはアイヌ民族か、それはわからない。
それはだれでもいいのだ。そのとき北海道に住んでいる人間が、安心し
て豊かな生活が保障されればいいことなのだ。

 諸外国の教訓に学ぶ
 
 米国は、いまから20年前にネバタ州ユッカマウンテンを最終処分地
として決定した。ところが、当初賛成した地域住民、とくにラスベガス
から強い反対運動が起きた。その理由は水脈が近くを通ることと輸送問
題である。飛行機が万一墜落して放射性廃棄物が飛散することを考えた
ら空輸はできない。ネバタ州は米大陸の真ん中、海上輸送もできない。
とすると陸上しかないわけだが、年間数千本のガラス固化体を道路や鉄
道で運ぶことを考えてみればいい。

 1日何十というトラックや列車が通れば、国道や鉄道の一般の利用は
不可能になる。とすればラスベガスへの観光客の入り込みは激減する恐
れがあるからだ。このことは日本でも考えておかなくてはならない。
 岐阜県も候補地に上がっているが、これはダメ。海のない岐阜県では、
ゴミ持ち込みのたびに東海道が止まってしまう。
 
 一方、ドイツはご承知のとおり、原発廃止を決めた国だ。 しかし、
さすがドイツ人。すでに邦貨換算4.2兆円の基金を最終処理のために
積み立てている。ドイツの原発は日本の半分。だからもし日本がドイツ
と同じペースで積み立てていれば、8兆円を越える残高がすでにあるは
ずであり、30年後には0.5%の金利でも私の試算では9.2兆円を
楽に越えていたのだ。

 北海道と青森に、高レベル放射性廃棄物産廃税を創設する。北海道の
堀知事は、ご承知のとおり、産廃税を北海道の法定外目的税として導入
しようとしている。北海道にとって最大の産業廃棄物は、実は高レベル
放射性廃棄物だ。知事が考えているいわゆる産業廃棄物も問題だが、
原発のゴミに比べると、時間的にも、地理的にも影響の範囲は、象と
ねずみぐらいの違いがある。

 私の意見は、高レベル放射性廃棄物を封じ込めたガラス固化体1本
当り2億2900万円を、北海道に搬入した際、納入していただく。
この税金は、そのために設立した中立的な北海道遺産基金として積立
て、目的以外には使用しない。つまり、このカネは現在の北海道庁の
ものでもなければ、現在の北海道民だけのものでもない。ましていわ
んや、中央政府や経済産業省や電力会社は発言する権利は全くない。
加害者、ゴミ排出者に補償金の使途に発言権はない。
 
 この条例は、青森県と共同で作りたい。現在、高温のガラス固化体
は青森県が保管している。政府は、「青森は最終処分場にしない。一
時保管だけだから」といって、最終処分場も決まっていないのに、
30年間、青森県に保管を押し付けているのが現状だ。
 繰り返していうが、政府は平然とウソをつく。30年後に約束した
人間はもういない。だから約束をしたときにきちんとカネをもらって
おかなければダメだ。
 
 青森県さん、いっしょにやりましょう。弱い者同士団結しなければ、
結局、泣きをみることになるのはわれわれだ。

                        以上

*資源エネルギー庁放射性対策室「特定放射性廃棄物の最終処分
 費用および拠出金単価の見直しについて」2001年10月
*原子力発電環境整備機構「特定放射性廃棄物処分の概要調査地
 区の選定手順について」2001年9月
*Alberta Heritage Saving Trust
 Fund 
 http;www.revenue.gov.ab.ca
*北海道「北海道産業廃棄物循環的利用促進税条例案の概要につ
 いて」2002年11月

                                    
             
                             
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 編集後記
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                     2003年3月17日   

  宜しくお願いいたします

 編集委員各位

 開拓使の会理事@太田明子です

 この度、力不足ながら、新編集長の任に就くこととなりました。
「北海道が好き!」という思いを大事にしつつ開拓使の会らしい、
個性的なメルマガを目指して北海道から発信して参りたいと思います。
 どうぞ宜しくお願いいたします。

 なお、当方の出動は、4月号(vol.5)からの編集となります。
お忙しいところ(執筆も含め)皆様にはいろいろとお願いたしますの
でどうぞ、ご覚悟?!のほどを。

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